『 あなた と わたし と ― (2) ― 』

 

 

 

 

       コポコポコポ ・・・ 

 

いい香の湯気が リビングの中に広がってゆく。

「 ・・・ うまい  ファン コーヒーの淹れ方、

 上達したな 

兄は オ・レのカップを持ったまま ぼそり、と言った。

「 あら  うふふふ  そうでしょう そうでしょう〜〜〜

 さんざん特訓されたの。  

 あ 紅茶の淹れ方もねえ 一応イギリス人に合格もらったのよ 」

「 ふん?  ミスタ・ブリテン か? 

「 そうよ。 あ〜  グレートとはオトモダチだもんね 兄さんってば 」

「 ヲタク・サポーター と言え。 ミスタ公認のブリテン・ファン・サイト

 フランス支部長 だ! 」

「 へ〜〜〜え〜〜〜〜〜  知らなかったぁ 」

「 覚えとけ!  彼の公演スケはしっかり把握している。 」

「 ふ〜〜〜ん  じゃあ その ミスタ・ブリテン から

 直々習ったのよ、わたし。  あ 紅茶 淹れましょうか? 」

「 いい。 パリジャンは カフェ・オ・レ だ。 」

「 ふん な〜によ〜〜〜  あ このカフェの淹れ方はねえ

 アルベルトから教わったのよ?  アルベルト、会ってるでしょ 」

「 ― ドイツ野郎の味 か 

「 お兄さん。 そういう言い方は 」

「 ふん。 なんとでも言え。 独仏戦争は俺達の 伝統 さ。 」

「 へえ〜〜〜 そんなの、初めて聞いたわよ? 

 あ わたしはね 東洋の島国 日本 に住んでいるんですからね 」

「 ― お前 あのジャ ・・・ 」

「 ストップ。 それ以上言ったら お兄ちゃんでも許さないから。 」

「 ふん。 ― とにかく フランス国籍は捨てるな 」

「 な なによ〜〜〜〜  いきなり 」

「 ふん ・・・ 」

妹の真っ赤に染まる頬を見て 兄は 覚悟 を決めた。

 

     そっか。

     ああ いつかその日が来るってこと

 

     ああ いいさ 

     ファン お前が幸せになれるなら

     妹よ お前が笑顔でいられるなら

 

     俺は ― 

     ・・・ ああ でも! 

     一発アイツを殴らせろ〜〜〜〜!

 

 

「 ― ああ そうだ。 明日 久々に飛ぶぞ 」

「 へえ? 珍しいわねえ  なにか演習? 

兄は空軍を現役退役した後 教官として軍属となっている。

 

     ふふふ

     ずっと飛ぶことと関っていたいのね 

   

     お兄ちゃんらしいな 

     わたし専属のヒーロー・・・♪

 

フランソワーズは 口には出さないけれど兄を誇りに思っていた。

 

「 ん〜〜 ・・・というか偵察 か 」

「 偵察???  ― フランスってどこかと戦争しているの?? 」

「 ば〜か。 偵察 って言ったぞ 」

「 だけど 教官サマ直々にって 非常事態〜って思うわ 」

「 ふん。  ちょいと妙なモノと遭遇した って報告があって 

「 妙な モノ ・・・? ( まさか〜〜 ジェット???

 やっだ〜〜〜 フランスまで飛んできちゃったわけ?? ) 」

「 なんて顔 してるんだ? 

 まあ その報告が一回や二回じゃない。 

 ちょいと気になって ― 明日の空き時間に 飛ぶ 」

「 な ・・・ んなの その 妙なモノ って。

 あ ゆ〜ふぉ〜 とか??? 」

「 ばぁか。  年代モノの複葉機 だって報告なんだ 」

 

   バサリ。  兄は新聞を折り畳んだ。

 

「  ― お兄ちゃん。 アタマ 大丈夫? 」

「 ! 俺は正気だ! 」

「 だって ・・・ そんなこと ありえないでしょう 

 複葉機って ・・・ 世界大戦の前 でしょ? 

「 正しい歴史認識だな。 」

「 ・・ 真面目な話じゃないの? 」

「 真面目さ。 大真面目。 だから 俺が飛んでみる。 」

「 そう ・・・ 気をつけて ってしか言えないわ。 」

「 ふん それしか聞けない。 」

「 ・・・ うん 」

 

   カチン カチン カチン。

 

妹は少し神経質にスプーンで オ・レを掻きまわした。

 

「 あ〜 そういえば。  昼間 電話があったんだ 」

「 ? 

「 トウキョウからなんだが 」

「 え!! ジョーから?? 」

「 来週 来るとさ 

「 きゃ〜〜〜〜〜  ♪ 」

「 なんだ お前ら。 ラインとかで連絡しあってるんじゃね〜のか 」

「 やってないもん。 ・・・ メールも  

「 へ え・・・?  それでいいのかよ 」

「 よく ないけど。 ジョー は 好きじゃないみたで 」

「 ふ〜ん ・・・ ま 俺はちゃんと伝えたからな 」

「 うふふふ・・・ あ ねえ ウチに泊めていいでしょう? 」

「 ― ヤツはこのソファ だ。 それでいいか 

兄は リビングの片隅を指した。

「 うん いいわ。  そうだわ キッシュ作っておくわ。

 ジョーがねえ わたしのキッシュ、大好きって言ってくれてるの。

 シフォン・ケーキも焼こうかな 」

「 ― そんなに気を使う相手なのか 

「 え〜 なに言ってるの  普段のメニュウばかりじゃない? 」

「 俺は ここしばらくキッシュもシフォン・ケーキも

 喰ってないけどな 」

「 お兄ちゃん 好きじゃないでしょ  も〜〜 ヤキモチ 焼かないで 

「 ! だれが !  」

「 うふふ   あ 明日の < 偵察飛行 >、気を付けてね〜 」

「 メルシ。 マドモアゼル 」

「 ふん。  ああ わたし、明日はレッスン、行くから

 帰りは少し遅いわ。  鍵、 忘れないでね 」

「 ん 〜〜   まあ 楽しんで踊ってこい 」

「 ウン。  ・・・ キッシュ  焼こうか 」

「 ― 頼む 」

兄は ニヤっと笑うと カップに残ったオ・レの残りを飲み乾した。

 

 

 ― 翌日 ・・・

 

「 おはよ〜〜 」

「 ぼんじゅ〜る 」

大きなバッグを肩に 似たような姿の若者たちがやってくる。

「 ハイ  えっと ・・・ フランソワーズ! 」

「 ハイ エミリ〜  」

顔見知りになったダンサー達とおしゃべりして 着替えて。

 

     さあ〜〜

     今朝も踊れるわ  

     今日のアダージオは どんな振り?

     ふふふ〜〜 アレグロは負けないから。

 

     ・・・なにせ ジャポンで特訓されたからね

 

「 ・・・っと〜〜 」

隅のバーでストレッチ。  身体中の筋肉をゆっくりと解して行く。

 

「 ぼんじゅ〜る? 」

ミストレスが入ってきた。  続くのはにこにこ顔の老ピアニスト氏。

この名人は 古ボケたオルガンを 巧みに弾きこなす。

彼の手にかかると 足踏みの旧式オルガンは ルビーンシュタインの名器となり

数々の名曲で ダンサー達を文字通り < 踊らせて > くれるのだ。

 

     ムッシュウ、よろしく♪

 

     ・・・ふふふ アルベルトに聴かせたいわあ

     わたしの生まれ故郷ではね

     街の隅にも 偉大な芸術家がいるの

 

フランソワーズはご機嫌ちゃんで レッスンに参加した。

 

「 ボン! そこのあなた! すごくいいわ〜〜〜 」

アレグロを踊り終えた時 ミストレスが褒めてくれた。

「 ステップも音取りも最高ね!  あ 名前・・・? 

 フランソワーズ?  ありがと!

 皆〜〜  彼女の音取りをよ〜〜く見てね 」

 

     うわ〜〜〜♪

     ねえ 知ってます? 

     わたし 日本の稽古場ではね

     いっつも アレグロ 大苦戦なんですよ?

 

     フランソワ―ウズ、音 よく聴いて !

 

     って毎日言われてるんです ・・・

 

本当に 今日は身体が軽い。

アントルシャも 楽々 シス が入る。

「 ハイ あなた そうよ その軽さね〜〜〜  

ミストレスさんが 褒めてくれた。

 

   ぱちぱちぱち ・・・  皆から拍手をもらえた。

 

「 え ふふふ ・・・めるし〜〜 」

かるくレヴェランスをして 後方にもどる。

「 皆〜〜 音 よく聞いて?  軽く弾けて!

 ステップの順番は合っていても音に合ってなければ

 踊ってる ってことじゃないのよ〜〜 」

お願い、と彼女は老ピアニスト氏に笑顔を贈れば ―

「 Oui 〜〜〜 Ma petite ♪ 」

彼は ボロオルガンを最高にアップテンポに響かせる。

「 お いいわね〜〜〜 さあ この曲でいきましょ 

 えっと二人づつ はい そこから 」

 

     うわ〜〜〜 素敵な曲〜〜

     ・・・ もしかして 即興??

 

     よおし 小粋に踊りまあす♪

 

フランソワーズは ポアントを鳴らし 宙に舞いあがり

跳び 回った。

 

「 なんだか  嬉しそうね?  」

「 ・・・え ? 」

自分の順番が終わり 後ろに戻ったとき 隣にいた赤毛の子が

ぼそ・・・っと呟いた。

「 とっても嬉しそうよ  なにかいいこと、あるのね 」

「 あ   え ええ ・・・ 

 あのう〜〜〜  トモダチがくるの 」

「 トモダチ?  うふふ ・・・ 彼氏でしょう? 」

「 え ・・・ あ  あのう〜〜〜 

 ええ そうなの♪  ジャポネなの、トウキョウからくるの 」

「 うわぉ〜〜 く〜〜る♪ 」

「 めるし♪ 」

「 シアワセねぇ〜〜 」

 

「 あ〜〜 こっち見てね〜〜〜 」

ミストレスさんが 軽く注意をした。

 

      いっけない ・・・

 

      ふふふ レッスン中にこんなおしゃべり、

      日本でなら 叱られてしまうわね

 

      集中しま〜す!

 

  カツカツカツン  シュ ―−−ッ

 

お馴染みのメロディーに乗って ポアントやらバレエ・シューズの足音が

スタジオに満ちてゆく。

 

 

 

 

    ヒュル −−−−  ・・・・

 

乾いた風が 残りの落ち葉を吹き飛ばしてゆく。

道端のカフェでは ぽつぽつ灯りが見え始めている。

人々は コートの襟を立てマフラーの中に顔を半分埋め

足早に通りすぎてゆく。

 

「 ・・・ ふう〜〜〜 

 

フランソワーズは コートの前を開け少しゆっくりと歩いた。

レッスンの後、シャワーで汗を流し それでもまだ身体に熱が残っている。

「 あ〜 久し振りかも ・・・ こんな気持ちいい熱って ・・・ 」

 

  ・・・ ふわり。 

 

スカーフが風に吹かれて半分襟元から流れ出た。

陰気な空気の中 白く輝いてみえる。

「 あ は ・・・ こんな午後には明るくていいかな〜〜

 ― ね ジョー ・・・ 一緒に歩けたらなあ 」

少しは賑やかな大通りから 公園の中に入った。

回り道になるけれど 静かな路を歩きたかったのだ。

 

    コツコツコツ ・・・  カサカサカサ ・・・

 

足元に絡まる枯れ枯れの葉を避け 彼女はのんびり歩いて行った。

 

     コツ コツ  コツ −−−

 

気がつくと前方から杖をついたヒトが近づいてきていた。

「 ・・・? あら ・・・ さっきは見えなかったけど

 ああ わたし、落ち葉に気を取られていたのね  きっと 」

その人物は老人らしかったので 彼女は道の端に寄った。

 

     コツ コツ コ。

 

すれ違い在間に 老人の足が止まった。

「 ・・・? 」

何気に通り過ぎる彼女に その声が飛び込んできた ・・・

 

    気をつけて! ジョーは 君を撃つ

 

「 ―  えっ!? 」

振り向いた途端 ― その人物は 消えていた。

、 ?? な  なんなの・・? 幻覚 に 幻聴 ???

 そ そんなはず ・・・ 」

 

     ジョーは   きみを   うつ

 

ほんの一瞬聞こえただけなのに その言葉はがんがんと

彼女のアタマの こころの いや 身体中に響き出し始めた。

「 ・・・ や やめてっ! やめて ・・・! 

耳を覆ったけれど かえって逆効果だった。

その言葉は 彼女が何回も見てきた映像を蘇らせる。

 

    ・・・ ジョー ・・・

    あなた 

    あの冷たい視線で 

    わたしを狙うの

 

    あの冷徹で微塵も感情のない視線で

    わたしを見定め ・・・ 撃つ の ・・・?

 

 

      ヒュル −−−−  ・・・・

 

立ち尽くす彼女の足元を 枯れ果てた葉の残骸が転げていった。

 

    

 

 

 

  カタン −−  トースターの扉を開ける。

 

「 お兄ちゃん。 焼けたわよ 」

「 ・・・ん あ〜〜 

兄は 相変わらず新聞の向うから返事だけ 返す。

「 ちょっと遅くなっちゃったけど ・・・ ランチ ・・・ 」

「 あ〜  俺もいつもよか遅かったし 」

「 オ・レ でいい? 」

「 あ〜 」

 

   コトン。 テーブルにマグ・カップが二つ、置かれた。

   バサー  新聞紙がテーブルの脇に 置かれた。

 

「 ― 俺 今日なあ とんでもないコトがあって 」

「 わたし。 妙なコトに出遭ったの ・・・ 」

 

兄妹はほぼ同時に口を開いていた。

 

「 ・・・ な なんだよ? 」

「 なに よ? 」

 

一瞬、口を閉じ互いを見つめたが ― 二人ともすぐにまた話を続けた。

 ― そう・・ お互い報告しているつもりなのだが

兄も妹も 相手の言うコトは全く耳に入っていない・・・

 

兄は飛行中に遭遇した オンボロ複葉機のことを。

妹は公園ですれ違った老人の 恐ろしい予言のことを。

 

二人はそれぞれイッキに捲し立てた ・・・ そして沈黙した。

「 ・・・・・ ? 」

「 ・・・・・ 」

不可解な表情で お互い見つめあうばかりだ。

 

    カチ カチ カチ −−−

 

居間の中に 時計の音ばかりがやけに大きく響く。

「 ― ねえ。 その時計、まだ直してないの 」

「 ああん? 」

兄は身をよじって壁際のチェストの上を見た。

年季の入ったアラバスタ―の飾り時計が とんでもない時間を指している。

「 ひょっとして ― ず〜〜っとあのまま? 」

「 ああ。 これでいい 

「 なんで??  これじゃ時計の役目、してないわ 」

「 時計じゃないから 

「 じゃ なに?  鑑賞用ってほどのアンティークじゃないでしょ 」

「 まあ な 

「 ヘンなの。 あ 修理にだす? 」

「 ― 放っておけ。 これは これでいいんだ 」

「 な〜によ〜〜  ヘンなのはお兄さんの方だわ 」

「 ― いいから。  キッシュ、美味かったぞ 」

「 あら そ ・・・ 」

 

 「「 だから アレはなんだったのか って 」」

 

しばらくの沈黙の後 兄妹はほぼ同時に同じ言葉を投げかけ合った。

 

「 ・・・ ファン。 なにがあった? 」

「 お兄さん。 どうしたの アレってなに 」

湯気の上がるカップを置いて 焼きたてのトーストを置いて

兄は妹の冴えない顔色を 妹は兄の苛立ちを 見つめていた。

「 ―  アイツが ジョーがくるのか 

「 明日も飛ぶの? 」

「 え ああ ・・・ 航空博物館に行ってみるよ 」

「 ええ ロンドン経由で・・・ グレートも一緒ですって。

 仕事の取材がらみらしいけど 」

「 お ミスタ・ブリテンが来るのか!

 こりゃ ファン・クラブに召集、かけねば! 」

「 ・・・ファン・クラブ ねえ・・・ ま いいけど 」

「 俺達には大イベントだ! お前ら〜 勝手にやっててくれ 」

「 はいはい ・・・ 博物館取材の結果、教えてね 」

「 おう。  さてと、メンバーに連絡だ ♪ 」

兄はいっぺんに陽気になり いそいそとスマホを取りだした。

「 ・・・ もう ・・・  ま いいわ。 

 グレートと一緒なら 彼からなにか聞けるし。

 ・・・ そうよ。 まさか彼が ― そんなコト、するはずないもの。 」

 

   ゴクン。  オムレツの最後の一口を オ・レで飲みこんだ。

 

 

 

 ― その日。

 

パリの空はやはり灰色で重く垂れこめていた。

朝から兄は出掛けていたし フランソワーズもいつものスタジオで

レッスンに参加した。

 

「 ハイ! フランソワーズ。 ジャポネのコイビトは来たの? 」

仲良くなった赤毛が 陽気に声をかけてきた。

「 エミリ。 午後、着くの。 」

「 お〜〜 いいなあ〜〜  ね カレって をたく? 」

「 ・・・ は? 」

「 あ〜〜 知らないかあ  え〜と コミック とか好きかな 」

「 さあ ・・・ あ でも 少年なんとか って漫画雑誌、

 読んでたわ 見たことあるの 」

「 え〜〜〜〜 マジィ??  ねえねえ ・・・ よかったら・・・

 そのう〜〜 オハナシしたいの アタシ!

 あ ヘンな意味じゃないの アタシね 実は二ホンのマンガ・ヲタク

 なのよ〜〜〜 

「 ・・・ エミリ が??  そうなの・・・ 」

「 うふふ〜〜 パリではねえ マンガって超く〜〜る なの(^^

 あ〜〜〜 キメツ とか読んでるかなあ フランソワーズのコイビトさん 」

「 さ さあ ・・・? ( キメツってなんだろ? )

 でも こんど 連れてくるわね 」

「 マジ??  きゃ〜〜〜〜 メルシ〜〜〜〜 」

赤毛女子は ぱっと抱き付いてきた。

 

        へえ ・・・ 日本の漫画がクール ねえ・・・

 

        日本語の本は読めるようになったけど

        漫画 は苦手だわ

        ・・・ 辞書にない言葉 ばっかりなんだもの

 

        がーん とか し −−− ん とか なに?

 

ついこの間 日本のバレエ・スタジオで見せてもらった 少女漫画 は

華麗で繊細な絵に見とれたが ハナシはさっぱりわからなかった。

 

「 じゃ ね〜〜  カレシによろしく〜〜〜 」

「 また 明日ね〜 」

「 ほら スカーフ、落ちそうだよ? 」

「 あ メルシ〜 」

アイボリーのスカーフを首にかるく掛けた。

ひらひら手を振って別れると フランソワーズは昨日と同じ道を

進んでゆく。

あの公園で 落ち合う約束なのだ。

 

    コツコツコツ  ・・・  カサササ ・・・

 

散り遅れた落ち葉が数枚、彼女の足元を通りすぎていった。

「 ・・・ ・・・ 」

ドキドキする。 久し振りにジョーに会える。

 ― でも 嬉しさ100% ではない。

 

        ジョーは 君を 撃つ 

 

あのイヤな声が耳の奥から蘇る いや 木霊し続けている。

     

       そんなこと  ウソよ。

 

自分自身にそして世界中に かっきりと宣言した時・・・

 

     あ ・・・ !

 

道の先に よ〜〜く知った姿が二つ、見えてきた。

「 !  ジョー 〜〜〜〜〜 !!  グレート !  」

彼女は わさわさ・・・大きく手を振って 駆けだした。

彼らも彼女の気付いたのか 足をとめて手を上げている。

 

「 いらっしゃ〜〜〜い!  わあ 待ってたのよぉ〜〜〜 」

 

          え ・・・?

 

≪ 気をつけろ 上!!  003! 上だっ 

≪ 003〜〜〜  目と耳をonにしろ! 

二つの声が、いや 脳波通信が一度に < 飛んで > きた。

「 な なに??  ≪ 009 007? なに ≫

≪ 上だっ!  今 行くっ ≫

≪ 身を低く! 吾輩も 飛ぶぞ ≫

 

   シュ −−−− ッ!  

 

独特の音と共に 009の姿は視界から消えた。

 

   バサ バサバサ 〜〜〜〜

 

いきなり大型の猛禽類がパリの公園の空に舞った。

 

「 !?  な  なに ・・・  あ ・・・・っ !!! 」

フランソワーズは 上と見上げた途端 ―  意識が飛んでしまった。

 

 

 

     ひら  ひらひらひら ・・・・

 

雲に覆われた空から 一筋 白っぽいものが落ちてきた。

灰色の空気の中 それはひときわ輝き華麗に舞う・・・ ようにみえた。

 

「 フランソワーズっ 〜〜〜〜〜〜 ! 」

「 ・・・ ダメだ 吾輩の前で アレは消えた ! 

「 ・・・ くっ! 」

009は 落ちてきたその白っぽいモノを捕まえた。

「 こ  これは ・・・ ! 」

「 ? なんだ それ 」

変身を解いたイギリス紳士は 周囲を見回しつつ訊ねる。

「 ・・・ スカーフ ・・・  」

「 ああ? それくらい吾輩でも分かるが 」

「 こ これ。  フランの、なんだ ・・・

 ぼくが た 誕生日に ・・・ 贈った ・・・ 」

「 え。 ・・・ じゃあ 」

「 うん。 ― とにかく ジャンさんの、お兄さんの事務所に

 連絡しよう 」

「 おう。 彼は軍属だったな 」

「 そうだって。 ・・・ グレート、知り合い? 」

「 というか〜 ひょんなコトから知古となったよ。

 実に頼もしい御仁さ うん。 」

「 ん ・・・ ああ 殴られるかも 

 フランを護るって約束したのに ・・・ 」

「 ま 一発で済ませてくれることを祈るんだな ボーイ 」

「 ・・・ くう〜〜  ご心配 ありがとう・・・ 」

009と007は  いや ジョーとグレートは周囲に気を配る。

曇天の午後 ― 寒風が吹き抜ける公園に 人影はない。

こんな時間に散歩する酔興なヒトも犬もいない ・・・らしい。

 

「 よし ・・・ 大丈夫だ。 それじゃ 

「 おう。 急ごう  あ〜 博士に連絡とるか? 」

「 あ そうだね  あ 時差でちょっと今は無理かな 」 

「 おい とりあえずここから撤収した方がいい 」

「 うん ―  ごめん  フラン ・・・ 」

彼らは そそくさと公園から去って行った。

 

 

 

 

          **************

 

 

 

 そこは  ―  混沌としていた。

 

上も下も 遠くも近くも  ない。

照明器具は見当たらないのだが ぼんやりした明かりが照らしている。

液体にも近いどんよりとした空気が 彼女を取り巻いていた。

 

「 ・・・ つゥ ・・・  手が ・・・  」

両手に疼痛を感じ 彼女はやっと目を開けた。

「 あ  気がついた? 」

プラチナ・ブロンドの少年が すぐ側にいた。

「 ・・・ う ・・・ わ わたし・・・? 」

「 気分はどう?  どこか怪我とかしていない? 」

「 ・・・ 怪我じゃない と思うけど  手が ・・・ 」

「 ごめんね ・・・ ほら こうすれば少しは楽かな 」

彼は 彼女を抱き起こすとなにか柔らかいモノに寄りかからせた。

「 ・・・ あ ・・・ 」

「 これでどうかな 」

「 ・・・ あ ありがとう ・・・ ええ これで大丈夫 」

姿勢は少し楽になったが 手の痛みはまだ続いていた。

「 ここは ・・・どこ?  」

「 どこでもない場所 かな 」

「 ・・・ なに それ。 ネバーランド? 

 ああ それであなたは ピーターパン なの? 」

こんな状況での軽いジョークに 少しだけ空気が明るくなった 気がした。

「 え ・・・ ぴーたーぱん?  それって だれ 」

「 あら 知らないの?  そうねえ・・・永遠の少年 かしら 」

「 永遠の?  ・・・ あ トシ、取らないってことかな 」

「 そうよ。  ・・・ ああ それなら わたしも永遠の少女だわ 」

「 ??  君はちゃんと普通のオンナノコでしょう? 」

「 ・・・ そう 見える? 」

「 うん。 あ 少しは楽になった? 」

「 ええ ・・・ でも手が痛い ・・・ これ なに?

 わたし なにもしないわ これを とって 」

彼女は 両手を差し出した。 

「 ― いいよ。  僕にその権限はないけど ・・・

 君の悲しい瞳は 見たくないんだ 」

「 ・・・ ありがとう ・・・ 」

 

    ・・・ こと。  ・・・

 

少年は彼女の拘束具を外した後、そのまま 彼女の瞳を見つめている。

「 ・・・ わ あ 〜〜〜〜 」

「 あ ら  なあに 

「 ね 知ってる?  知らないよねえ 」

クスクスクス ・・・ 彼は小さく笑った。

「 え なあに なあに?  わたし、顔になんか付いてる? 」

「 ふふふ〜〜  ちがうよぉ 

 あ の ね。  君の瞳の中に  青空  があるんだ、知ってた? 」

「 ― え ・・・? 」

「 すご〜〜〜いキレイ・・・!

 青空って こんな風なんだ? ・・・ ステキだあ〜〜 」

「 え。  青空 見たこと ないの? 」

「 ウン。 ・・・ ここは  なにもかも曇ってるんだ ・・・

 空も空気も大地も  ・・・ ずっと ・・・ 」

「 そう  なの ・・・  ねえ ここから脱出しましょう!

 こんなところ、よくないわ。 ダメよ ここに居ては。

 そして 一緒にパリに来て!

 そうだわ もっと綺麗な青空ならね 日本に行きましょう! 」

「 ・・・ 無理なんだ  ・・・ ここからは抜け出せない

誰も 逃げることはできないんだ ・・・  」

少年は とてもとても悲しい目で彼女を見る。

「 そんな  ―  あ ねえ あなた、お名前は?

 わたしは フランソワーズ 」

「 ― 僕 ・・・ 名前 ないんだ ・・・ 」

「 え。 あ それじゃ ・・・ あ  フィリップ。 そう呼んでいい? 」

「 ふぃりっぷ ・・・ やあ いい名前だね 

彼は 薄い薄い空色の瞳でにっこり ・・・ 笑った。

 

      ここは  ―  どこ なの?

 

Last updated : 03.01.2022.         back     /    index    /  next

 

*********  途中ですが

え ・・・  原作とはちょいと違う路線になります〜〜 <m(__)m>

SF的不可思議現象 ・・・ は よくわかりませんので

93的に♪ お話は捻じ曲げられて? ゆきますです <m(__)m>