『 あなた と わたし と ― (2) ― 』
コポコポコポ ・・・
いい香の湯気が リビングの中に広がってゆく。
「 ・・・ うまい ファン コーヒーの淹れ方、
上達したな 」
兄は オ・レのカップを持ったまま ぼそり、と言った。
「 あら うふふふ そうでしょう そうでしょう〜〜〜
さんざん特訓されたの。
あ 紅茶の淹れ方もねえ 一応イギリス人に合格もらったのよ 」
「 ふん? ミスタ・ブリテン か? 」
「 そうよ。 あ〜 グレートとはオトモダチだもんね 兄さんってば 」
「 ヲタク・サポーター と言え。 ミスタ公認のブリテン・ファン・サイト
フランス支部長 だ! 」
「 へ〜〜〜え〜〜〜〜〜 知らなかったぁ 」
「 覚えとけ! 彼の公演スケはしっかり把握している。 」
「 ふ〜〜〜ん じゃあ その ミスタ・ブリテン から
直々習ったのよ、わたし。 あ 紅茶 淹れましょうか? 」
「 いい。 パリジャンは カフェ・オ・レ だ。 」
「 ふん な〜によ〜〜〜 あ このカフェの淹れ方はねえ
アルベルトから教わったのよ? アルベルト、会ってるでしょ 」
「 ― ドイツ野郎の味 か 」
「 お兄さん。 そういう言い方は 」
「 ふん。 なんとでも言え。 独仏戦争は俺達の 伝統 さ。 」
「 へえ〜〜〜 そんなの、初めて聞いたわよ?
あ わたしはね 東洋の島国 日本 に住んでいるんですからね 」
「 ― お前 あのジャ ・・・ 」
「 ストップ。 それ以上言ったら お兄ちゃんでも許さないから。 」
「 ふん。 ― とにかく フランス国籍は捨てるな 」
「 な なによ〜〜〜〜 いきなり 」
「 ふん ・・・ 」
妹の真っ赤に染まる頬を見て 兄は 覚悟 を決めた。
そっか。
ああ いつかその日が来るってこと
ああ いいさ
ファン お前が幸せになれるなら
妹よ お前が笑顔でいられるなら
俺は ―
・・・ ああ でも!
一発アイツを殴らせろ〜〜〜〜!
「 ― ああ そうだ。 明日 久々に飛ぶぞ 」
「 へえ? 珍しいわねえ なにか演習? 」
兄は空軍を現役退役した後 教官として軍属となっている。
ふふふ
ずっと飛ぶことと関っていたいのね
お兄ちゃんらしいな
わたし専属のヒーロー・・・♪
フランソワーズは 口には出さないけれど兄を誇りに思っていた。
「 ん〜〜 ・・・というか偵察 か 」
「 偵察??? ― フランスってどこかと戦争しているの?? 」
「 ば〜か。 偵察 って言ったぞ 」
「 だけど 教官サマ直々にって 非常事態〜って思うわ 」
「 ふん。 ちょいと妙なモノと遭遇した って報告があって 」
「 妙な モノ ・・・? ( まさか〜〜 ジェット???
やっだ〜〜〜 フランスまで飛んできちゃったわけ?? ) 」
「 なんて顔 してるんだ?
まあ その報告が一回や二回じゃない。
ちょいと気になって ― 明日の空き時間に 飛ぶ 」
「 な ・・・ んなの その 妙なモノ って。
あ ゆ〜ふぉ〜 とか??? 」
「 ばぁか。 年代モノの複葉機 だって報告なんだ 」
バサリ。 兄は新聞を折り畳んだ。
「 ― お兄ちゃん。 アタマ 大丈夫? 」
「 ! 俺は正気だ! 」
「 だって ・・・ そんなこと ありえないでしょう
複葉機って ・・・ 世界大戦の前 でしょ? 」
「 正しい歴史認識だな。 」
「 ・・ 真面目な話じゃないの? 」
「 真面目さ。 大真面目。 だから 俺が飛んでみる。 」
「 そう ・・・ 気をつけて ってしか言えないわ。 」
「 ふん それしか聞けない。 」
「 ・・・ うん 」
カチン カチン カチン。
妹は少し神経質にスプーンで オ・レを掻きまわした。
「 あ〜 そういえば。 昼間 電話があったんだ 」
「 ? 」
「 トウキョウからなんだが 」
「 え!! ジョーから?? 」
「 来週 来るとさ 」
「 きゃ〜〜〜〜〜 ♪ 」
「 なんだ お前ら。 ラインとかで連絡しあってるんじゃね〜のか 」
「 やってないもん。 ・・・ メールも
」
「 へ え・・・? それでいいのかよ 」
「 よく ないけど。 ジョー は 好きじゃないみたで 」
「 ふ〜ん ・・・ ま 俺はちゃんと伝えたからな 」
「 うふふふ・・・ あ ねえ ウチに泊めていいでしょう? 」
「 ― ヤツはこのソファ だ。 それでいいか 」
兄は リビングの片隅を指した。
「 うん いいわ。 そうだわ キッシュ作っておくわ。
ジョーがねえ わたしのキッシュ、大好きって言ってくれてるの。
シフォン・ケーキも焼こうかな 」
「 ― そんなに気を使う相手なのか 」
「 え〜 なに言ってるの 普段のメニュウばかりじゃない? 」
「 俺は ここしばらくキッシュもシフォン・ケーキも
喰ってないけどな 」
「 お兄ちゃん 好きじゃないでしょ も〜〜 ヤキモチ 焼かないで 」
「 ! だれが ! 」
「 うふふ あ 明日の < 偵察飛行 >、気を付けてね〜 」
「 メルシ。 マドモアゼル 」
「 ふん。 ああ わたし、明日はレッスン、行くから
帰りは少し遅いわ。 鍵、 忘れないでね 」
「 ん 〜〜 まあ 楽しんで踊ってこい 」
「 ウン。 ・・・ キッシュ 焼こうか 」
「 ― 頼む 」
兄は ニヤっと笑うと カップに残ったオ・レの残りを飲み乾した。
― 翌日 ・・・
「 おはよ〜〜 」
「 ぼんじゅ〜る 」
大きなバッグを肩に 似たような姿の若者たちがやってくる。
「 ハイ えっと ・・・ フランソワーズ! 」
「 ハイ エミリ〜 」
顔見知りになったダンサー達とおしゃべりして 着替えて。
さあ〜〜
今朝も踊れるわ
今日のアダージオは どんな振り?
ふふふ〜〜 アレグロは負けないから。
・・・なにせ ジャポンで特訓されたからね
「 ・・・っと〜〜 」
隅のバーでストレッチ。 身体中の筋肉をゆっくりと解して行く。
「 ぼんじゅ〜る? 」
ミストレスが入ってきた。 続くのはにこにこ顔の老ピアニスト氏。
この名人は 古ボケたオルガンを 巧みに弾きこなす。
彼の手にかかると 足踏みの旧式オルガンは ルビーンシュタインの名器となり
数々の名曲で ダンサー達を文字通り < 踊らせて > くれるのだ。
ムッシュウ、よろしく♪
・・・ふふふ アルベルトに聴かせたいわあ
わたしの生まれ故郷ではね
街の隅にも 偉大な芸術家がいるの
フランソワーズはご機嫌ちゃんで レッスンに参加した。
「 ボン! そこのあなた! すごくいいわ〜〜〜 」
アレグロを踊り終えた時 ミストレスが褒めてくれた。
「 ステップも音取りも最高ね! あ 名前・・・?
フランソワーズ? ありがと!
皆〜〜 彼女の音取りをよ〜〜く見てね 」
うわ〜〜〜♪
ねえ 知ってます?
わたし 日本の稽古場ではね
いっつも アレグロ 大苦戦なんですよ?
フランソワ―ウズ、音 よく聴いて !
って毎日言われてるんです ・・・
本当に 今日は身体が軽い。
アントルシャも 楽々 シス が入る。
「 ハイ あなた そうよ その軽さね〜〜〜
」
ミストレスさんが 褒めてくれた。
ぱちぱちぱち ・・・ 皆から拍手をもらえた。
「 え ふふふ ・・・めるし〜〜 」
かるくレヴェランスをして 後方にもどる。
「 皆〜〜 音 よく聞いて? 軽く弾けて!
ステップの順番は合っていても音に合ってなければ
踊ってる ってことじゃないのよ〜〜 」
お願い、と彼女は老ピアニスト氏に笑顔を贈れば ―
「 Oui 〜〜〜 Ma petite ♪ 」
彼は ボロオルガンを最高にアップテンポに響かせる。
「 お いいわね〜〜〜 さあ この曲でいきましょ
えっと二人づつ はい そこから 」
うわ〜〜〜 素敵な曲〜〜
・・・ もしかして 即興??
よおし 小粋に踊りまあす♪
フランソワーズは ポアントを鳴らし 宙に舞いあがり
跳び 回った。
「 なんだか 嬉しそうね? 」
「 ・・・え ? 」
自分の順番が終わり 後ろに戻ったとき 隣にいた赤毛の子が
ぼそ・・・っと呟いた。
「 とっても嬉しそうよ なにかいいこと、あるのね 」
「 あ え ええ ・・・
あのう〜〜〜 トモダチがくるの 」
「 トモダチ? うふふ ・・・ 彼氏でしょう? 」
「 え ・・・ あ あのう〜〜〜
ええ そうなの♪ ジャポネなの、トウキョウからくるの 」
「 うわぉ〜〜 く〜〜る♪ 」
「 めるし♪ 」
「 シアワセねぇ〜〜 」
「 あ〜〜 こっち見てね〜〜〜 」
ミストレスさんが 軽く注意をした。
いっけない ・・・
ふふふ レッスン中にこんなおしゃべり、
日本でなら 叱られてしまうわね
集中しま〜す!
カツカツカツン シュ ―−−ッ
お馴染みのメロディーに乗って ポアントやらバレエ・シューズの足音が
スタジオに満ちてゆく。
ヒュル −−−− ・・・・
乾いた風が 残りの落ち葉を吹き飛ばしてゆく。
道端のカフェでは ぽつぽつ灯りが見え始めている。
人々は コートの襟を立てマフラーの中に顔を半分埋め
足早に通りすぎてゆく。
「 ・・・ ふう〜〜〜 」
フランソワーズは コートの前を開け少しゆっくりと歩いた。
レッスンの後、シャワーで汗を流し それでもまだ身体に熱が残っている。
「 あ〜 久し振りかも ・・・ こんな気持ちいい熱って ・・・ 」
・・・ ふわり。
スカーフが風に吹かれて半分襟元から流れ出た。
陰気な空気の中 白く輝いてみえる。
「 あ は ・・・ こんな午後には明るくていいかな〜〜
― ね ジョー ・・・ 一緒に歩けたらなあ 」
少しは賑やかな大通りから 公園の中に入った。
回り道になるけれど 静かな路を歩きたかったのだ。
コツコツコツ ・・・ カサカサカサ ・・・
足元に絡まる枯れ枯れの葉を避け 彼女はのんびり歩いて行った。
コツ コツ コツ −−−
気がつくと前方から杖をついたヒトが近づいてきていた。
「 ・・・? あら ・・・ さっきは見えなかったけど
ああ わたし、落ち葉に気を取られていたのね きっと 」
その人物は老人らしかったので 彼女は道の端に寄った。
コツ コツ コ。
すれ違い在間に 老人の足が止まった。
「 ・・・? 」
何気に通り過ぎる彼女に その声が飛び込んできた ・・・
気をつけて! ジョーは 君を撃つ
「 ― えっ!? 」
振り向いた途端 ― その人物は 消えていた。
、 ?? な なんなの・・? 幻覚 に 幻聴 ???
そ そんなはず ・・・ 」
ジョーは きみを うつ
ほんの一瞬聞こえただけなのに その言葉はがんがんと
彼女のアタマの こころの いや 身体中に響き出し始めた。
「 ・・・ や やめてっ! やめて ・・・! 」
耳を覆ったけれど かえって逆効果だった。
その言葉は 彼女が何回も見てきた映像を蘇らせる。
・・・ ジョー ・・・
あなた
あの冷たい視線で
わたしを狙うの
あの冷徹で微塵も感情のない視線で
わたしを見定め ・・・ 撃つ の ・・・?
ヒュル −−−− ・・・・
立ち尽くす彼女の足元を 枯れ果てた葉の残骸が転げていった。
カタン −− トースターの扉を開ける。
「 お兄ちゃん。 焼けたわよ 」
「 ・・・ん あ〜〜 」
兄は 相変わらず新聞の向うから返事だけ 返す。
「 ちょっと遅くなっちゃったけど ・・・ ランチ ・・・ 」
「 あ〜 俺もいつもよか遅かったし 」
「 オ・レ でいい? 」
「 あ〜 」
コトン。 テーブルにマグ・カップが二つ、置かれた。
バサー 新聞紙がテーブルの脇に 置かれた。
「 ― 俺 今日なあ とんでもないコトがあって 」
「 わたし。 妙なコトに出遭ったの ・・・ 」
兄妹はほぼ同時に口を開いていた。
「 ・・・ な なんだよ? 」
「 なに よ? 」
一瞬、口を閉じ互いを見つめたが ― 二人ともすぐにまた話を続けた。
― そう・・ お互い報告しているつもりなのだが
兄も妹も 相手の言うコトは全く耳に入っていない・・・
兄は飛行中に遭遇した オンボロ複葉機のことを。
妹は公園ですれ違った老人の 恐ろしい予言のことを。
二人はそれぞれイッキに捲し立てた ・・・ そして沈黙した。
「 ・・・・・ ? 」
「 ・・・・・ 」
不可解な表情で お互い見つめあうばかりだ。
カチ カチ カチ −−−
居間の中に 時計の音ばかりがやけに大きく響く。
「 ― ねえ。 その時計、まだ直してないの 」
「 ああん? 」
兄は身をよじって壁際のチェストの上を見た。
年季の入ったアラバスタ―の飾り時計が とんでもない時間を指している。
「 ひょっとして ― ず〜〜っとあのまま? 」
「 ああ。 これでいい 」
「 なんで?? これじゃ時計の役目、してないわ 」
「 時計じゃないから 」
「 じゃ なに? 鑑賞用ってほどのアンティークじゃないでしょ 」
「 まあ な 」
「 ヘンなの。 あ 修理にだす? 」
「 ― 放っておけ。 これは これでいいんだ 」
「 な〜によ〜〜 ヘンなのはお兄さんの方だわ 」
「 ― いいから。 キッシュ、美味かったぞ 」
「 あら そ ・・・ 」
「「 だから アレはなんだったのか って 」」
しばらくの沈黙の後 兄妹はほぼ同時に同じ言葉を投げかけ合った。
「 ・・・ ファン。 なにがあった? 」
「 お兄さん。 どうしたの アレってなに 」
湯気の上がるカップを置いて 焼きたてのトーストを置いて
兄は妹の冴えない顔色を 妹は兄の苛立ちを 見つめていた。
「 ― アイツが ジョーがくるのか 」
「 明日も飛ぶの? 」
「 え ああ ・・・ 航空博物館に行ってみるよ 」
「 ええ ロンドン経由で・・・ グレートも一緒ですって。
仕事の取材がらみらしいけど 」
「 お ミスタ・ブリテンが来るのか!
こりゃ ファン・クラブに召集、かけねば! 」
「 ・・・ファン・クラブ ねえ・・・ ま いいけど 」
「 俺達には大イベントだ! お前ら〜 勝手にやっててくれ 」
「 はいはい ・・・ 博物館取材の結果、教えてね 」
「 おう。 さてと、メンバーに連絡だ ♪ 」
兄はいっぺんに陽気になり いそいそとスマホを取りだした。
「 ・・・ もう ・・・ ま いいわ。
グレートと一緒なら 彼からなにか聞けるし。
・・・ そうよ。 まさか彼が ― そんなコト、するはずないもの。 」
ゴクン。 オムレツの最後の一口を オ・レで飲みこんだ。
― その日。
パリの空はやはり灰色で重く垂れこめていた。
朝から兄は出掛けていたし フランソワーズもいつものスタジオで
レッスンに参加した。
「 ハイ! フランソワーズ。 ジャポネのコイビトは来たの? 」
仲良くなった赤毛が 陽気に声をかけてきた。
「 エミリ。 午後、着くの。 」
「 お〜〜 いいなあ〜〜 ね カレって をたく? 」
「 ・・・ は? 」
「 あ〜〜 知らないかあ え〜と コミック とか好きかな 」
「 さあ ・・・ あ でも 少年なんとか って漫画雑誌、
読んでたわ 見たことあるの 」
「 え〜〜〜〜 マジィ?? ねえねえ ・・・ よかったら・・・
そのう〜〜 オハナシしたいの アタシ!
あ ヘンな意味じゃないの アタシね 実は二ホンのマンガ・ヲタク
なのよ〜〜〜 」
「 ・・・ エミリ が?? そうなの・・・ 」
「 うふふ〜〜 パリではねえ マンガって超く〜〜る なの(^^♪
あ〜〜〜 キメツ とか読んでるかなあ フランソワーズのコイビトさん 」
「 さ さあ ・・・? ( キメツってなんだろ? )
でも こんど 連れてくるわね 」
「 マジ?? きゃ〜〜〜〜 メルシ〜〜〜〜 」
赤毛女子は ぱっと抱き付いてきた。
へえ ・・・ 日本の漫画がクール ねえ・・・
日本語の本は読めるようになったけど
漫画 は苦手だわ
・・・ 辞書にない言葉 ばっかりなんだもの
がーん とか し −−− ん とか なに?
ついこの間 日本のバレエ・スタジオで見せてもらった 少女漫画 は
華麗で繊細な絵に見とれたが ハナシはさっぱりわからなかった。
「 じゃ ね〜〜 カレシによろしく〜〜〜 」
「 また 明日ね〜 」
「 ほら スカーフ、落ちそうだよ? 」
「 あ メルシ〜 」
アイボリーのスカーフを首にかるく掛けた。
ひらひら手を振って別れると フランソワーズは昨日と同じ道を
進んでゆく。
あの公園で 落ち合う約束なのだ。
コツコツコツ ・・・ カサササ ・・・
散り遅れた落ち葉が数枚、彼女の足元を通りすぎていった。
「 ・・・ ・・・ 」
ドキドキする。 久し振りにジョーに会える。
― でも 嬉しさ100% ではない。
ジョーは 君を 撃つ
あのイヤな声が耳の奥から蘇る いや 木霊し続けている。
そんなこと ウソよ。
自分自身にそして世界中に かっきりと宣言した時・・・
あ ・・・ !
道の先に よ〜〜く知った姿が二つ、見えてきた。
「 ! ジョー 〜〜〜〜〜 !! グレート ! 」
彼女は わさわさ・・・大きく手を振って 駆けだした。
彼らも彼女の気付いたのか 足をとめて手を上げている。
「 いらっしゃ〜〜〜い! わあ 待ってたのよぉ〜〜〜 」
え ・・・?
≪ 気をつけろ 上!! 003! 上だっ ≫
≪ 003〜〜〜 目と耳をonにしろ! ≫
二つの声が、いや 脳波通信が一度に < 飛んで > きた。
「 な なに?? ≪ 009 007? なに ≫
≪ 上だっ! 今 行くっ ≫
≪ 身を低く! 吾輩も 飛ぶぞ ≫
シュ −−−− ッ!
独特の音と共に 009の姿は視界から消えた。
バサ バサバサ 〜〜〜〜
いきなり大型の猛禽類がパリの公園の空に舞った。
「 !? な なに ・・・ あ ・・・・っ !!! 」
フランソワーズは 上と見上げた途端 ― 意識が飛んでしまった。
ひら ひらひらひら ・・・・
雲に覆われた空から 一筋 白っぽいものが落ちてきた。
灰色の空気の中 それはひときわ輝き華麗に舞う・・・ ようにみえた。
「 フランソワーズっ 〜〜〜〜〜〜 ! 」
「 ・・・ ダメだ 吾輩の前で アレは消えた ! 」
「 ・・・ くっ! 」
009は 落ちてきたその白っぽいモノを捕まえた。
「 こ これは ・・・ ! 」
「 ? なんだ それ 」
変身を解いたイギリス紳士は 周囲を見回しつつ訊ねる。
「 ・・・ スカーフ ・・・ 」
「 ああ? それくらい吾輩でも分かるが 」
「 こ これ。 フランの、なんだ ・・・
ぼくが た 誕生日に ・・・ 贈った ・・・ 」
「 え。 ・・・ じゃあ 」
「 うん。 ― とにかく ジャンさんの、お兄さんの事務所に
連絡しよう 」
「 おう。 彼は軍属だったな 」
「 そうだって。 ・・・ グレート、知り合い? 」
「 というか〜 ひょんなコトから知古となったよ。
実に頼もしい御仁さ うん。 」
「 ん ・・・ ああ 殴られるかも
フランを護るって約束したのに ・・・ 」
「 ま 一発で済ませてくれることを祈るんだな ボーイ 」
「 ・・・ くう〜〜 ご心配 ありがとう・・・ 」
009と007は いや ジョーとグレートは周囲に気を配る。
曇天の午後 ― 寒風が吹き抜ける公園に 人影はない。
こんな時間に散歩する酔興なヒトも犬もいない ・・・らしい。
「 よし ・・・ 大丈夫だ。 それじゃ 」
「 おう。 急ごう あ〜 博士に連絡とるか? 」
「 あ そうだね あ 時差でちょっと今は無理かな 」
「 おい とりあえずここから撤収した方がいい 」
「 うん ― ごめん フラン ・・・ 」
彼らは そそくさと公園から去って行った。
**************
そこは ― 混沌としていた。
上も下も 遠くも近くも ない。
照明器具は見当たらないのだが ぼんやりした明かりが照らしている。
液体にも近いどんよりとした空気が 彼女を取り巻いていた。
「 ・・・ つゥ ・・・ 手が ・・・ 」
両手に疼痛を感じ 彼女はやっと目を開けた。
「 あ 気がついた? 」
プラチナ・ブロンドの少年が すぐ側にいた。
「 ・・・ う ・・・ わ わたし・・・? 」
「 気分はどう? どこか怪我とかしていない? 」
「 ・・・ 怪我じゃない と思うけど 手が ・・・ 」
「 ごめんね ・・・ ほら こうすれば少しは楽かな 」
彼は 彼女を抱き起こすとなにか柔らかいモノに寄りかからせた。
「 ・・・ あ ・・・ 」
「 これでどうかな 」
「 ・・・ あ ありがとう ・・・ ええ これで大丈夫 」
姿勢は少し楽になったが 手の痛みはまだ続いていた。
「 ここは ・・・どこ? 」
「 どこでもない場所 かな 」
「 ・・・ なに それ。 ネバーランド?
ああ それであなたは ピーターパン なの? 」
こんな状況での軽いジョークに 少しだけ空気が明るくなった 気がした。
「 え ・・・ ぴーたーぱん? それって だれ 」
「 あら 知らないの? そうねえ・・・永遠の少年 かしら 」
「 永遠の? ・・・ あ トシ、取らないってことかな 」
「 そうよ。 ・・・ ああ それなら わたしも永遠の少女だわ 」
「 ?? 君はちゃんと普通のオンナノコでしょう? 」
「 ・・・ そう 見える? 」
「 うん。 あ 少しは楽になった? 」
「 ええ ・・・ でも手が痛い ・・・ これ なに?
わたし なにもしないわ これを とって 」
彼女は 両手を差し出した。
「 ― いいよ。 僕にその権限はないけど ・・・
君の悲しい瞳は 見たくないんだ 」
「 ・・・ ありがとう ・・・ 」
・・・ こと。 ・・・
少年は彼女の拘束具を外した後、そのまま 彼女の瞳を見つめている。
「 ・・・ わ あ 〜〜〜〜 」
「 あ ら なあに 」
「 ね 知ってる? 知らないよねえ 」
クスクスクス ・・・ 彼は小さく笑った。
「 え なあに なあに? わたし、顔になんか付いてる? 」
「 ふふふ〜〜 ちがうよぉ
あ の ね。 君の瞳の中に 青空 があるんだ、知ってた? 」
「 ― え ・・・? 」
「 すご〜〜〜いキレイ・・・!
青空って こんな風なんだ? ・・・ ステキだあ〜〜 」
「 え。 青空 見たこと ないの? 」
「 ウン。 ・・・ ここは なにもかも曇ってるんだ ・・・
空も空気も大地も ・・・ ずっと ・・・ 」
「 そう なの ・・・ ねえ ここから脱出しましょう!
こんなところ、よくないわ。 ダメよ ここに居ては。
そして 一緒にパリに来て!
そうだわ もっと綺麗な青空ならね 日本に行きましょう! 」
「 ・・・ 無理なんだ ・・・ ここからは抜け出せない
誰も 逃げることはできないんだ ・・・ 」
少年は とてもとても悲しい目で彼女を見る。
「 そんな ― あ ねえ あなた、お名前は?
わたしは フランソワーズ 」
「 ― 僕 ・・・ 名前 ないんだ ・・・ 」
「 え。 あ それじゃ ・・・ あ フィリップ。 そう呼んでいい? 」
「 ふぃりっぷ ・・・ やあ いい名前だね 」
彼は 薄い薄い空色の瞳でにっこり ・・・ 笑った。
ここは ― どこ なの?
Last updated : 03.01.2022.
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********* 途中ですが
え ・・・ 原作とはちょいと違う路線になります〜〜 <m(__)m>
SF的不可思議現象 ・・・ は よくわかりませんので
93的に♪ お話は捻じ曲げられて? ゆきますです <m(__)m>